2016年11月5日土曜日

鏡像の意味論 その11、鏡像と虚像 ― 鏡像は平面パターンであるという初歩的な誤解 ― 鏡像は単独では直接の像と区別できないこと


「鏡像は平面パターンである」と考える人が結構いることは以前から分かっていたが、そう思っている人は意外と多く、それも科学者、もちろん光学の専門家ではないが、理科系の科学者や学生でもそういう人はまれではないかもしれない。とすれば人文系の科学者ではなおさら多いことは不思議ではないが、最近はこの問題で、ある意味、ショックを受けている。ある意味仕方のないことかもしれないが、しかし仮に心理学、視覚を扱う知覚心理学の分野で指導的な学者が幾何光学についてこの程度の認識しか持っていないとすれば、そういう分野自体が少々心許ないことになる。鏡像が虚像であるという幾何光学の説明はおそらく現在でも中学か、少なくとも高校の物理で習っている筈と思う。

【画像と鏡像の比較】

とりあえず鏡像が立体であり、二次元パターンではないことを、簡単に図示してみよう。次の図は前面が写真などの画像になっているパネル状の物体を上から見たところとする。前面前害が画像である。


当然、Aの位置とBの位置ではそれぞれ異なって見えるが、特に大きく異なるのは全体の横幅である。しかし描かれている画像は平面パターンだから全体が見えることに変わりなく、正面向きの顔が表現されているとすれば、どこでも同じ正面向きの顔が見えることに変わりはない。これは図を描くまでもなく分かることである。

一方、鏡像ではどうだろうか?下の図は鏡像の説明である。ちなみに矢印付き直線は光の進行を表し、波線は上図と同様、視角を表している。





人物Bは真正面から自分の鏡像を見ているのに対し、Aの位置では斜め横向きの顔が見える。AにはB君の右ほほにある斑点は見えないだろう。逆にB君は四角い顔の両側面は本人には見えないだろう。しかしA君にはB君の左側側面がよく見える。

視角に着いて言えば、上図の画像の場合、Aの位置ではBの位置でよりも狭くなっているが、下図のAの位置では逆にBの位置でよりも大きくなり、画像の場合とは逆になっている。もちろんこれは常にそうなるのではなく、像の形状によるものではあるが。

確かにヒトの視覚では物の表面しか見えない。しかしこれは鏡像であることとは関係がない。同時に顔の正面と横顔を同時に見ることはできないが、これも鏡を通さず直接見る姿でも同じことである。

またこの絵の状況では確かに鏡に映った顔の後ろや上から見た姿も見ることはできない。 しかし直接他人を見る場合でもそのような状況はきわめて普通である。どちらの場合も光源の位置と目の位置を動かすことで、どの角度からも見ることができるのである。要するに、鏡を介さずに見ている対象が立体であるといえるのであれば、鏡像も立体であり、鏡像と鏡を介さない像とを区別することはできない。

【虚像について】

光学、正確に言えば幾何光学では鏡像は虚像と呼ばれる。鏡像は虚像の一種である。虚像とは何か、要するに目に見える物と目との間に光を反射あるいは屈折させる物体が介在するだけのことである。だから鏡像はもちろん虚像だが、ルーペで見る像も虚像と呼ばれる。鏡像とルーペで見る像が虚像であればメガネで見る像も虚像ということになる。当然、近視や乱視のメガネもそうである。どんなに度のゆるいメガネであっても、始めてメガネをかけたとき、肉眼だけで見るときとは異なった距離に見えるものである。だから肉眼で見るのとは異なる像を見ていることになる。これはれっきとした虚像である。

このように見てくると、肉眼で見る像もつまるところ、虚像に他ならないのである。あらゆる像は虚像である。結局のところ、すべて網膜に映った像から知覚している像に他ならない。

【網膜像について】

網膜に映った像が平面パターンであるから、結局のところヒトが認知する像自体も立体ではないと考える向きがある。しかしヒトは自分の目の網膜像を見ているのではない。

いったい、自分の目の網膜像、正確には曲面ではあるが、とりあえず網膜上の平面パターンを見た人がいるだろうか。網膜像を平面パターンとして見るには網膜を別の眼で見なければならない。

普通、網膜像が平面パターンであるということは、人は知識として知っているだけであって、実際にそのようなものを見た人はいない。

網膜像は眼の解剖学的な知見と、凸レンズの幾何光学的知見とから想定される概念以上のものではない。 もちろん、概念として厳然として存在することは確かである。しかし、目で見える像(image)ではないし、まして、上記のように自分の目の網膜像を見られる筈もない。

このように、人は平面的な網膜像というものを知っているが、それは解剖学と幾何光学の先達の遺産をそのまま意識せず、感謝もせずに受けとっているだけなのである。
鏡像の場合も同様。鏡の幾何光学をよくよく理解することなく、鏡像の問題を語ることはできないのである。

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