2013年6月20日木曜日

「系」と「System」の対応関係とそれぞれの意味の複雑さについて(その2)

先般、システムと系の意味深長な意味の差異 という記事を書いたが、「System」と「系」それぞれの本来の意味と訳し方については色々と微妙な問題が含まれているように思われる。まず実例をいくつか挙げてみたい。

  • 「frame of reference」という用語は専門用語辞典によると基礎用語として『基準系』という訳語のみが与えられている。他方、研究社理化学英和辞典によると『基準座標系』という訳語が与えられている。もう一つ、岩波理化学辞典にはこの用語は出ていなかった。岩波理化学辞典は用語辞典ではないので、あまり些細な項目は取り上げられていないという傾向はあるが、少し気にはなる。
  • この『基準系』をウィキペディア日本語版で調べてみると、次のように説明されている。「基準系、基準座標系、または参照系 (英: frame of reference) は、物理学において、系の内部の対象の位置、方位、およびその他の性質の測定を行う基準となる座標系または座標軸の集合、または観測者の運動の状態に結びつけられた観測基準系 (observational reference frame) を言う。」
  • 前項に引いたウィキペディアの説明では単独で「系」という用語が使われているが、この「系」を上述の各辞典で調べてみると、用語辞典では分野毎に様々な対応する英語が挙げられているが、もちろん多くの分野で「system」がもっとも多い。但しこの用語を研究社理化学辞典で調べると対応するのは数学用語としての「corollary」のみであり、岩波の理化学辞典では何も出ていない。
  • 「system」単独では、岩波理化学辞典には項目がないが、研究社の理化学英和辞典では物理用語として「系、体系、物質系、物理系」の訳語が挙げられ、「有機的な関連をもった部分の集まり、特に物理的考察の対象として環境から区別して理念的に抽出したもの」との説明が与えられている。
  • 「座標系」は、どの辞書でも「system of coordinate」または「coordinate system」であり、これはそのまま日本語の熟語にきれいに一致し、対応している。また岩波理化学辞典には「座標」の項目の中に詳しい説明があり、「座標の各点に対する座標成分のあたえ方を決める方式」となっている。つまり、systemが「方式」の意味で使われていると言える。この説明はウィキペディアでもだいたい同じであって、座標系の種類として直交座標系とか極座標系とかが挙げられている。
以上の例のみでなく色々な例を考えあわせて見るに、ただ物理学用語として考えた場合でも、「系」の持つ意味的なニュアンスと「system」の持つ意味的なニュアンスはかなり異なっているように思われる。この意味上の差異が文脈によって重要な意味を持つ場合があるとは言えないだろうか。例えば「座標の変換」というような概念の用い方や捉え方にも影響が及んでいる可能性も考えられるのではないだろうか。

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